短編小説【じこまん】
お題【車】【青年】【かみなり】
ハンドルを握る手に、さらにぐっと力がこもる。どっどっと、激しくなる鼓動を落ち着かせる様に、青年は息を吐いた。
「大丈夫、僕ならやれる」
言葉とは裏腹に、その声は弱々しい。
窓の外の天気は、あやしく、黒い雲に覆われていた。今にも雨が降りそうだ。
青年は、車のスピードをあげる。
終わりへの道だ。最後のチャンスだ、やるしかない。
青年の頭の中で、強気な自分がぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる、囁く。
「ぅわああああ!!!!!!」
青年は、悲鳴のような、泣いているような奇声をあげ、ハンドルを切った。
...ピカッ-ーーーゴロロロロ
同時に稲妻が落ちる。
この世の終わりのような景色だ。真っ黒な世界に、死を告げる稲妻。
そして、絶望していた青年の、最後のチャンス。
一人で死んでたまるか、
どうせ死ぬなら、誰かと一緒に死んでやる。
何もできないお前が、みんなができない人殺しをやってみろ。あいつらを見返そうぜ。
悪魔が、そう言ったんだ。
僕にだって、できることくらいある。
青年は、生臭い血の匂い。声にならない悲鳴。徐々に大きくなるサイレンの音に、ほくそ笑み、目を閉じた。
青い鳥たちは笑う。
死ぬなら、勝手に一人で死ね。
園児の集団に突っ込んだものの、誰も巻き込まれずに済んだんだって。本当に良かった。
被害者はいなかったみたい。
あいつ事故起こして死んだって。しょうもないよな。何もできないうえに、人殺しになろうとするなんて。
車と青年とかみなり